「月光魔術団」全37巻 平井和正

今、平井和正と聞いて、ピ~ンと来る人が日本にどれくらいいるのだろう。
エイトマンウルフガイシリーズ、幻魔大戦シリーズ、と大ヒット作を世に送り出してきた、類稀なるエンターテイナーである。

平井和正はファンの予想(期待?)を良くも悪くも裏切ってきた。新しい作品を書くたびに、古き良き作品に愛着を持っていたファンは戸惑いを覚え、新しいファンを獲得してきた。ファンでさえ追いつけないほど、平井和正はめまぐるしく変化する。これほど、変化し続ける作家は珍しいと思う。

さて、僕自身も古き良き平井作品を愛する者である。
「月光魔術団」はノリの軽さに戸惑いを覚えながら、読み始めた。微かに香る平井和正のエッセンスを嗅ぎながら、読み続けていた。途中、何度も挫折しそうになりながらも、平井和正を信じて、読み続けた。そして、第三部の幻魔大戦DNAが始まるころには、作品の世界にどっぷり浸って、物凄い勢いで読み進むことができた。平井和正は死んでいなかった。「月光魔術団」も平井作品以外のなにものでもなかった。最後のほうになると、平井カラーが濃厚になり、切なさで胸が締め付けられる思いをした。また、平井和正はキャラづくりの名人でもある。本作の主人公、鷹垣人美もすばらしく魅力的だ。脳天気で自由奔放で、情に脆く、情け深い。行く先々で、嵐を巻き起こし、出会う者を幸せにしていく。そして、読む者にまで彼女は影響を与える。退屈な現実を打破して、生きる喜びを与えてくれる。まるで、地上に舞い降りた天使見習いのような女の子だった。彼女に出会えて幸せだった。そして、この作品に出会えて幸せだった。僕は切なさと幸福感に満たされて、この本を閉じた。